『騎士団長殺し』を読んで

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もう随分前に読み終わっていたのですが、何から書いていいものやら分からず、そしてやっぱり本について語るのはどうも恥ずかしいようで、寝かせておりました、『騎士団長殺し』のあれこれ。時間が空くとつい忘れてしまうので、とりあえず今の気持ちを記しておこうと思います。

 

本の感想ってネットで見ない

と、言っておいてなんですが。私自身はほとんど、インターネット上で本の感想は読まないのです、そういえば。調べてから本を買うということはほとんど、全くと言っていいほど、ない。小説以外のもの、仕事に必要な本とか、そういったものはamazonのレビュー見たりしますが、小説に関してはまず見ない。見ても全く参考にしていないと思う。小説に関しては、受け取り側がどう思うかというのはやっぱりものすごく個人的なものであると思うし、ましてや「良い」「悪い」の判断というのは、誰かにしてもらうものではない、と、思っています。

なので、ここに記すのもあくまでも私が「感じたこと」だけであって、これに変な影響を受けず、いいものはいい、好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、という人それぞれの感想を大切にしていただけますとこれ幸いです。お前は誰だという話ですが。

この小説に関しても、私はネット上にしてもメディア上にしてもたぶん一つも読んでいないので、これが世間一般の受け止め方と同じなのかズレまくっているのかはさっぱりわからない。わからないけれどもまあ、それで良いと、思う。

あと一応、これから読む人だってたくさんいると思うので、小説の内容は分からないように書いています。

つまり一言で言うとものすごく良かった、と思う。

前作の1Q84を読み終えた時、正直私は、あの小説が春樹氏の集大成のように思えてしまって、「これはすごい。もしかしてこの人は、これ以上もう長編小説を書かないんじゃないか。」と、ちょっと思った。今までの物語がなんというか一つの伏線となっているような、ノンフィクション含めて、すべてがこの物語につながってるんじゃないかなあというような気が、していた。今までの物語は、この物語のためにあったんじゃないか、と。

けど、それって今思えば当たり前のことなのだろうなと思う。小説家だって人間なわけで、時間とともになんというか進化しある程度洗練だってされていく。だから一番新しい物語が、今までの集大成である、というのは、それはごく自然なことなのだ。

その時点での集大成から、また先に進むというのは、実はものすごく当たり前で、それを同じ分野でできるというのが、つまりはプロだということかもしれない。そしてそんなことはわかりきっていたけれど、村上春樹さんはプロなのだ。しかもとてもタフな。

そんなわけで、もう二度と読めないんじゃないかと思っていた春樹氏の長編を読めるというだけで私は嬉しかったわけですが。そんな気持ちがあったからなのかどうかわからないけれど、私はこの物語を、とても優しい物語だなと感じた。春樹氏の小説は、いつも深い深い地下に潜り込んでいくのだけれど(それは比喩としてもストーリーそのものとしても。)今回はその地下のダークさが、いつもよりも穏やかであったように思う。でもそれはこの物語のせいなのか、それとも読む私の変化のせいなのか、それはわからない。もしかしたら私が歳を重ねて、地下のダークさを、「受け止められるようになった」とは言えないにしても、ただ「知る」ようにはなったからかもしれない。

「優しい物語」だと感じられること

そしてこの小説で、主人公が深く深く潜り込んでいく過程で、それは具体的にストーリーの中でそういう描写がある(潜り込んでいくというのはここでは比喩だけれども、具体的にある行動をとる)場面で、私は一度、すごく泣いた。深く潜り込んでいく過程で泣くというのは、春樹氏の小説を読んでいて初めてのことで、自分でもちょっとびっくりした。

たぶんちょうど自分が、今までにないくらい、自分と向き合おうとしているからかもしれないな、と、思う。自分と向き合おうとしているというか、まだ何も見えない中を、手探りで、なんとか前に進もうとしているというか。とにかくその描写は、自分のようだ、と、思った。その先で待っている(であろう)ものや、過去に置いてきたものや、遠くに聞こえる声すべてが、私を囲むもののようだ、と。

そこには、恐ろしいものや、血なまぐさいものや、どろりとした手触りのものがあったかもしれない。そしてそれは自分の周りにあったのではなくて、本当は自分の中に、そこだけにあったものかもしれない。それと対峙することは誰かに傷つけられることよりもっと痛いことかもしれない。

それでも、それらすべてが「私を囲むもののようだ」と思ってもなお、この物語を「とても優しい物語だ」と感じたことは、私にとってもこの主人公にとっても、「救い」だなと思う。それはきっと、自分と、自分の手に届く範囲にあるものを、信じているからこそだろうと思うから。誰かの評価ではなく、自分のものさしで、少なくとも「見よう」という気持ちはきっと持っているからだろうと思うから。

続きが気になってどんどんと読み進めていく小説というのは山のようにあるけれど、読み終わるのが惜しくて、なんとかゆっくり読み進めたいと思った小説は初めてだったかもしれない。私にとって数少ない、何度でも読みたい本。1年後、2年後、10年後。読み終えた時にどんな感想を自分が抱くのか、とても楽しみだなと思います。

大切な物語が一つ増えた。それはとてもとても、素晴らしいこと。

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